
消防士になりたい、消防の仕事に興味があるけれど…

災害現場でどんな行動をしているの?

交通事故でどんな活動をするの?

救助活動のエピソードが聞きたいな…
と想いや悩みを巡らせているのではないでしょうか?
この記事では、これらの想いや悩みを
『東京消防庁もとレスキュー隊長』の『バリー』が今までの経験から解説・アドバイスします。
最後まで読んでいただけたら、「救助活動現場のエピソード」から消防士の魅力がざっくり分かると思います。
ちなみに私は、

消防士は「やりがい」があって最高!
プライベートも充実させてくれて感謝!
って想っている幸せものです。
消防士になりたい、興味がある方にとって、この記事が消防の世界に足を踏み入れる『きっかけ』になってもらえると嬉しいです。

レスキュー隊長として交通事故現場へ
『交差点内、ワゴン車の運転手が脱出不能』
指令が流れる。
感染防止衣を着ながら、レスキュー車に乗り込む。
ドアを閉めた途端、車が走り出した。
機関員(運転手)が言う。
「現場は、すぐです!」
隊員に指示を出す。
「はじめに車輪止めとコンビツールを持ってきてくれ!」
隊員のひとりが言う。
「了解!私がコンビツールを持って行きます」
《道具について解説》
感染防止衣
けが人の血液や体液からの感染を防ぐ衣服。上位とズボンのセットになっている。
交通事故現場や転落事故現場などに着ていく。
コンビツール(バッテリー式)
バッテリーを原動力として動く。ハサミのような形状になっていて、事故車両の扉をこじ開けたり、鉄板を切ったりすることができる。(油圧式のスプレッダーやカッターの能力を併せ持つ道具)
持ち運びに便利で、直ぐに使用できる利点がある。
機関員が言う。
「事故車両が見えてきました!」
交通事故現場に到着
ハンドルが男性の腹部を圧迫
交差点内でワゴン車のフロントが潰れている。
周りはガラスやプラスチックの破片が散乱し、事故の衝撃を物語る。
警察官が先に着いていて、ワゴン車運転席の男性に話しかけている。
私も駆け寄り、
窓越しに話しかける。
「レスキュー隊です。必ず助けます。頑張ってください」
男性は、うなずいた。
苦悶の表情だ。
車のフロントが潰れたことで、運転席の窓は割れ、ドアは開かない。
運転席の空間がかなり狭く、ハンドルが男性の腹部を圧迫している。
さらに足部を見ると膝から下が埋まっている状態だ。
私が警察官に言う。
「交差点内にレスキュー車を入れて救出活動をします。一般の車は通行を止めてください」
警察官は了解し、交通整理にあたってくれた。
その後、ガソリンなどの燃料が漏れていないか確認する。
燃料は漏れていない。
問題なく活動できる。

交通事故現場では、隊員の安全を確保することが大切です。交通の整理、ガソリンなどの危険物の流出の確認、事故車両が勝手に動かないよう車輪止めの設定など初期に行わなければなりません。
燃料が漏れている場合は、ポンプ隊がホースを延長し、万が一火が着いてしまった際に備えます。
救出活動が終わったら、燃料を吸着させる粉(油処理剤)をまいて清掃を行います。
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運転席ドアをこじ開ける
《判断》
・運転席ドアをコンビツールでこじ開ける。
・男性の頸部(首)固定する。
・男性の挟まれた状態を詳細に把握する。
・ワゴン車フロントをレスキュー車のウインチワイヤーで広げる。

レスキュー車のフロント部分には、ウインチワイヤーが装備されています。
ウインチワイヤーは、30mほど伸び、先端のフックを重量物に掛け引っ張ることができます。
能力は、5t程度です。
私の判断を隊員に伝える。
隊員2人に運転席ドアのこじ開けを指示。
機関員(運転手)にレスキュー車の移動を指示した。
私は、レスキュー車がワゴン車の正面に位置するよう誘導する。
レスキュー車の停車位置が微妙にズレている。
機関員と停車位置を再度確認する。
あと30㎝右側に寄せたい…
2人のイメージが一致し、レスキュー車を適切な位置に停車させた。
機関員に指示する。
「ウインチを用意してくれ!」
ワゴン車に目を向けると隊員が運転席ドアの開放作業をしている。
隊員の一人がコンビツールを使ってドアの隙間を少しずつ広げている。
隊員のもう一人が油圧式のカッターを準備している。
「バキッ!バキッ!バキッ!」
ドアをこじ開ける音が響き渡る。
ドアが開きそうだ。
ドアの付け根の配線が見えてくる。
すかさず隊員が油圧式のカッターで切断。
ドアが外れた!
レスキュー車のウインチで引っ張る
運転手の状況を確認する。
先ほどあまり見えなかった足部を見る。
ワゴン車のフロント部分が潰れたため、運転席下部のスペースは、ほとんどない。
さらにブレーキペダルの下に足の付け根部分が引っかかっている。
やはり、レスキュー車のウインチでワゴン車のフロント全体を引っ張り、運転席下部のスペースを広げなければ救出することはできないと判断した。
みんなに伝える。
「ウインチで運転席スペースを広げるぞ。掛け縄を設定してくれ!」

掛け縄とは、4m~5mのワイヤーロープのことです。
このワイヤーをワゴン車のフロント部分全体に引っかけて使います。
隊員の一人が了解し、掛け縄を設定する。
その時、救急隊が到着した。
私が救急隊長に言う。
「交通事故による頸椎損傷の疑いがあります。頸部固定をお願いします。救出まで10分程度かかります」
救急隊長が私に言う。
「わかった。首を固定後、酸素投与と毛布による保温をする予定だ」
私は了解し、救出活動を継続する。
掛け縄の設定が完了した。
レスキュー車のウインチの準備もできている。
男性の首の固定もできた。
「よし!ワゴン車フロントを引っ張るぞ!」
「ワイヤー巻き取り!」
徐々にワイヤーが張られる。
「停止!点検!」
ワイヤーにテンションがかかったところで、もう一度点検をする。
掛け縄の設定状況やウインチワイヤーの設定状況は完璧である。
「点検よし!ワイヤー巻き取り!」
さらにワイヤーが張られる。
ワゴン車から「バキバキバキッ!」とワイヤーがめり込む音が鳴る。
徐々にワゴン車運転席のスペースが広がる。
「ゆっくりワイヤー巻き取り!」
救出できるだけのスペースが広がってくる。
「停止!当て木設定!」

当て木とは、厚い板のことです。
広げたスペースが塞がらないように「当て木」を入れ込んでスペースを確保します。
救急隊長は、男性の頸部固定と酸素投与をして付き添ってくれている。
その間に男性の足部を確認する。
ブレーキペダルの下に足の付け根があったが、スペースが空いたことで抜けそうだ。
私は男性に話しかける。
「足を少し引きます。もう少しです。頑張ってください」
男性はうなずいてくれた。
少しずつ足を引く。
付け根が抜けた。
「救出可能!救急車に搬送するぞ!」
皆で協力して、男性をストレッチャーに乗せる。
急いで救急車に収容した。
救急車が出発するところを見送り、颯爽と道具を撤収し、消防署に引揚げた。
できることは全てやった
男性は、救急病院に運ばれた。
命に別状はないみたいだ。
正直ホッとした。
心配されることは、社会復帰ができるかだ。
ただ、男性のその後のことを聞くことはできない。
社会復帰ができるよう祈るばかりだ。
隊員たちにも、命に別状がないことを伝え、懸命に救出活動にあたってくれたことに感謝を伝えた。
みんな喜んでいた。
私の言葉以上に今まで訓練で身に付けた知識や技術が活かされたことに満足している感じだった。
チームで一人の命を救えたことに誇りを感じた。

災害現場で人を救出できた喜びは、何事にも代えがたい経験です。
モチベーションが高まります。
ぜひぜひ消防の世界に!
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