
消防士になりたい、消防の仕事に興味があるけれど…

火災で人を助ける時は、一人で運ぶの?

人を助けるって体力必要だよね?

人を助ける訓練のエピソードが聞きたいな…
と想いや悩みを巡らせているのではないでしょうか?
この記事では、これらの想いや悩みを
『東京消防庁もとレスキュー隊長』の『バリー』が今までの経験から解説・アドバイスします。
最後まで読んでいただけたら、人を救出する際の困難性がざっくり分かると思います。
ちなみに私は、

消防士は「やりがい」があって最高!
プライベートも充実させてくれて感謝!
って想っている幸せものです。
消防士になりたい、興味がある方にとって、この記事が消防の世界に足を踏み入れる『きっかけ』になってもらえると嬉しいです。

要救助者とは
訓練のエピソードを書く前に…
「要救助者(ようきゅうじょしゃ)」について、解説したいと思います。
この言葉は、「災害現場で救助が必要な人」のことを言います。
火災が発生した建物で言うと、
煙を吸って倒れてしまった人…
火の手が迫っているが、足が不自由で動けない人…
ベランダで助けを求めている人… など。
交通事故現場で言うと、
電車と接触し、車輪に挟まれてしまった人…
車が壁に衝突して、車のフロントが潰れ、運転席で足が挟まった人…
車がスリップにより横転し、車内から出られない人… など。
このように命の危険が迫り、自らその危険を取り除くことができない人が該当し、意識の有無は関係ありません。
消防隊は、この「要救助者」救出するために車両・資器材、知識・技術を駆使して活動することになります。

東京消防庁では、「要救助者」と呼んでいますが、他道府県の消防本部で「要救(ようきゅう)」と略して呼ぶこともあります。
参考までですが、「救助者」は、すでに救出された人のことを言います。
要救助者を扱う訓練
要救助者を扱う訓練は、基本的に「ダミー人形」を使います。
東京消防庁の消防活動訓練で使用されているダミー人形は、2種類あります。
一つ目は布製ダミー。
丈夫な生地の中に砂などが入っていて、重さ35㎏ほど。
二つ目は、ホース製ダミー。
消防で使用していたホースを編んだ生地の中に砂などが入っていて、重さが60㎏ほど。
これらのダミー人形を訓練目的によって使いわけています。

ダミー人形は、中の砂の量を調整することで、重さを変えることができます。
それでは火災現場で要救助者を扱う訓練を2つ紹介します。
両脇引っ張り救出(一人搬送)
「火災建物に逃げ遅れ1名。人命検索開始」
隊長が指示する。
私ともう1名の隊員(後輩)で検索体形をつくる。
二人の間を命綱で繋ぎ、さらに30mロープを後輩の安全帯に付ける。
この30mロープは、玄関前で隊長が持ち、万が一の際にこのロープを伝って逃げれるようにするためだ。
呼吸器の面体を付け、ライトを携行し、建物の中に入っていく。

訓練なので、面体には視界を隠すシールドを貼って、煙で視界がない状況を作っています。
また、建物の中は迷路になっているため、壁を伝いながら前に進んでいます。
呼吸器について書いた記事がありますので下にリンクを貼っておきます。

左手で壁を触りながら、右手は地面すれすれを半円を描くように差し出す。
そうすることで、視界がない中、倒れている要救助者に触れる可能性を大きくしている。
3m…5m…7m進んだ所で、右手が柔らかいものに触れた。
両手を使って、柔らかいものが何か確認する。
人の形(ダミー人形)であることを確認して…
「要救助者発見!」
後輩に伝える。
後輩は、ライトに付いているブザーを2回鳴らし、命綱を2回引く。
要救助者発見の合図を隊長に送っているのだ。
私は、要救助者の上半身を起こし、背中にピッタリとつく。
そして脇の下から、要救助者の左腕を両手で掴んだ。
後輩に伝える。
「一人搬送で行く。合図を送れ」
後輩は了解するとともに、ライトのブザーを3回鳴らし、命綱を3回引く。
私は要救助者の上半身を上げ、救出する。

要救助者の両脇を吊りあげる形になっているので、両足は地面に付いて、ひきずっています。
このように1人で救出する方法を「両脇引っ張り救出」と言います。
ただ、両足を引きずってしまうので、火災建物から早く助けたくて、段差がなく、救出する距離が短い時に使う救出方法です。
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2人吊り上げ搬送
要救助者を火災建物から屋外に救出した。
私と後輩は、面体を外し、命綱を解除する。
その後、隊長が指示する。
「2人で要救助者を長距離搬送するぞ」
私たちは了解し、配置につく。
私は胸部を持ち、後輩は足部を持つ。
胸部の持ち方は、両脇引っ張り救出と同じ要領だ。
2人で息を合わせて、立ち上がる。
長距離搬送の始まり…
訓練場の周りをひたすら搬送する。
1周…2周…
次第に空気呼吸器の重さと要救助者の重さが足にのしかかる。
さらに要救助者の腕を持っている握力が弱くなってくる。
きつい…
徐々に要救助者の胸部が下がってくる。
隊長に指示を受ける。
「要救助者が下がってきてるぞ。辛いのは要救助者の方だ」
私は返事をして、
力を振り絞って、しっかりと両腕を持ち搬送を続ける。
ただ、もう手の握力がなくなっている。
歯を食いしばる。
隊長が指示する。
「あと5m!あそこまで搬送しろ!」
5m先が長い。
でも要救助者を落とすわけにはいかない。
気力で要救助者の両腕を掴む。
あと、3m…2m…1m
到着。
要救助者をゆっくり降ろした。
隊長が指示する。
「訓練終了!」

このように要救助者を2人で搬送する方法を「2人吊り上げ搬送」と言います。
今回の記事では、屋外で搬送しましたが、火災建物の中でも使うことができます。
人の重さ
「両脇引っ張り救出(1人搬送)」と「2人吊り上げ搬送」の訓練エピソードを紹介しました。
火災建物で要救助者を発見したら、この2つの搬送方法のどちらかを選択して救出することになります。
理由としては、道具を使わずマンパワーだけで直ぐに救出できるからです。
火災建物で要救助者が倒れている場所は、熱気や煙があり環境が悪い場所になります。
一刻も早く救出しなければなりません。
担架などの搬送資器材を使っている時間はないのです。
ただ、要救助者の体重「人の重さ」を支える力が必要になります。
過酷な環境に耐える精神力も必要になります。
そして、仲間との連携も必要です。
だから消防士は、体力トレーニングや訓練に専念しているのです。

消防士用語で「訓練は裏切らない」と言います。
火災現場で要救助者を救出する時、訓練で培った経験が必ず活かされるでしょう。
ぜひぜひ消防の世界に!
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