
消防士になりたい、消防の仕事に興味があるけれど…

消防士は災害でどんな行動をするの?

災害活動はやりがいがありますか?

燃えている建物に入るのは怖いよね?

火災現場のエピソードが聞きたいな…
と想いや悩みを巡らせているのではないでしょうか?
この記事では、これらの想いや悩みを
『東京消防庁もとレスキュー隊長』の『バリー』が今までの経験から解説・アドバイスします。
最後まで読んでいただけたら、「火災現場のエピソード」から消防士のやりがいがざっくり分かると思います。
ちなみに私は、

消防士は「やりがい」があって最高!
プライベートも充実させてくれて感謝!
って想っている幸せものです。
消防士になりたい、興味がある方にとって、この記事が消防の世界に足を踏み入れる『きっかけ』になってもらえると嬉しいです。

人命救助が最優先
燃えている建物で玄関ドアや窓ガラスが全て閉まっていたらどうするのか?
消防隊は、直ちに玄関ドアや窓ガラスを破壊して、建物内に放水します。
決してためらいません。
建物の中に逃げ遅れた人がいるかもしれません。
言うまでもなく、人の命の方が大切なのです。
今回の記事は、そのような状況下で消防士が果敢に火と立ち向かう姿をお伝えします。

今回は、私がレスキュー隊員2年目のエピソードです。
マンション火災に出場
「マンション4階から火が見える」
22時頃の指令。
体力トレーニング中であったため、体は仕上がっている。
颯爽とレスキュー車に飛び乗った。
けたたましいサイレンを鳴らし出場。
車内で隊長から指示が飛ぶ。
「エンジンカッターを必ず持ってきてくれ!」
隊員たちは答える。
「了解!」
機関員(運転手)が隊長に言う。
「最先着すると思います!」
隊長が言う。
「分かった。着いたら、状況を無線で入れてくれ!」
機関員が答える。
「了解!」
【最先着について解説】
災害現場に一番早く到着することを最先着と言います。
最先着した部隊は、車両から見える範囲で
災害の状況を無線で指令室に報告する必要があります。
指令室は、その状況を聞いて、他に応援に行かせる部隊を考えることができるし
災害現場に向かっている他の部隊も自分たちの行動をイメージしやすくなります。
窓の外から焦げ臭ささを感じる。
火災現場は近い。
後ろの席に乗っている隊員が言う。
「マンションの窓から煙が出ています!」
それとほぼ同時に機関員が言う。
「到着!最先着です。状況を無線で入れておきます!」
火災現場に到着し行動開始
車両から降りると、マンションの住民が多数避難してきて、叫んでいる。
「402号室が火事です!」
隊長がすかさず聞く。
「逃げ遅れた人はいますか?」
誰からも返答がない…みんな分からないのだ。
隊長が隊員に指示する。
「二人でエンジンカッターと投光器(ライト)を持って4階に、もう二人でホース延長の支援をしてくれ!」
隊員全員が答える。
「了解!」

レスキュー隊は、隊長含めて5名から6名でチームを組んでいます。
このエピソードでは、5名チームです。
ホース延長の支援とは、マンション火災だとホースを伸ばして放水するまで時間を要します。(上層階であるほど時間を要します)
レスキュー隊と言えども、燃えている建物の中に「放水なし」で入ってはいけません。(ルールで決められています)
そのため、ポンプ隊がホースを伸ばすのに協力して、一刻も早く燃えている建物内部に放水できるように支援するのです。
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玄関ドアの隙間から煙が噴き出す
私ともう1名で、エンジンカッターと投光器を持ち、隊長を追いかける。
4階に到着すると、隊長が住民の人と話をしている。
どうやら燃えている部屋の隣人みたいだ。
隊長が私に言う。
「燃えている部屋は、1人暮らしだ。逃げ遅れている可能性がある。玄関ドアを破壊しろ!」
私は答える。
「了解!」
玄関ドアを確認する。
鍵が掛かっていて、ドアの上側を触ると少し温かい。
さらに玄関ドアの上の隙間から白い煙が噴き出している。
内部は間違いなく燃えている。
早く破壊しなければ…
その時、ホースが到着した。
ホースに勢いよく水が入り、急激に膨らむ。
放水体勢は整ったようだ。
あとはエンジンカッターで玄関ドアを破壊すれば、人命検索ができる。
【エンジンカッターの解説】
混合ガソリンによりエンジンが作動し、円形の切断刃を高速回転させる。
金属、コンクリート、木材などを切断できる。
玄関ドアを破壊する方法は、ドアロック付近で三角形に切り抜くように切断する。
三角形に空いた穴に手を入れてロックを解除することで、ドアを開放する。
ドアロックがない玄関ドアは、消防隊員が入れる大きさの四角形に切断する。
重さ:約10㎏
人命救助へのプレッシャー
玄関ドアの切断する箇所を確認し、エンジンカッターを始動する。
低いアイドリング音…
そこから切断刃を高速回転させる…
玄関ドアに正対し、エンジンカッターを構える…
高速回転させた切断刃を玄関ドアに当てる。
金属が削れる音とともに火花が飛ぶ。
「大丈夫だ。しっかり切れている!」
心の中で確認する。
三角形の一辺が切断完了。
もう一度、切断刃を高速回転させ玄関ドアに当てる。
切断面をしっかり見て、イメージどおりに切れているか確認する。
順調だ…イメージどおりだ!
三角形の二辺が切断完了。
後ろをふり返ると、レスキュー隊とポンプ隊の隊員が面体を被り、ホースと投光器を手に持っている。
建物に入る準備ができているのだ。
早く玄関を開けなければ、人命検索ができない…
プレッシャーを感じる。
さらに切断刃を高速回転して、玄関ドアに当てる。
エンジンカッターを持つ手の握力が弱くなってくる。
しっかり持たなければ…
その時、レスキュー隊の先輩が後ろからエンジンカッターの取っ手を握る。
先輩が言う。
「大丈夫だ。もうすぐ切れる!」
先輩がエンジンカッターを支えてくれているため、体勢が安定し切断しやすい。
あと2㎝…あと1㎝…
切断完了!
三角形に切られたドアの破片が落ちる。
直ぐにエンジンカッターのエンジンを止め、後ろに下がる。
隊長が三角形の穴に手を突っ込みドアロックを解除した。
逃げ遅れた人が目の前に
隊長が指示する。
「玄関ドアを開放する。すぐに放水開始だ!」
徐々に玄関ドアが開く…その隙間から白煙が噴き出す。
間髪入れずポンプ隊の小隊長が放水を開始する。
その後ろにレスキュー隊員2名が人名検索を始める。
一歩一歩少しずつ前進していく。
私もエンジンカッターを置き、面体を被る。
その時…
「要救助者(逃げ遅れた人)発見!」
玄関を入って1mほどの場所で逃げ遅れた人が倒れていたのだ。
隊長が私に指示する。
「面体を離脱して、早く救急隊に引き継ぐぞ!」
私は了解し、救急隊を呼ぶ。
「救急隊!ストレッチャーを持ってきてくれ!」
救急隊は了解し、折りたたみ式のストレッチャーを広げてくれた。
その間にレスキュー隊員が逃げ遅れた人を救出し、ストレッチャーの上に収容する。
救急隊長が逃げ遅れた人に呼びかける。
「分かりますか?分かりますか?」
体が少し動いている。
救急隊長が救急隊員に指示する。
「気道確保しながら、救急車に収容しよう!」
救急隊やポンプ隊が協力して、4階から階段を使って、救急車の中に収容した。

逃げ遅れた方は、救急病院に搬送され、一命をとりとめたそうです。
延焼防止
逃げ遅れた人を救出した後…
私も面体を被り、建物内に入る。
前進するにつれて煙も濃く、熱気も感じるようになる。
玄関から3mほど進んだところで左手を見ると、炎を確認した。
すかさず、ポンプの小隊長が放水する。
あっという間に真っ白な煙が広がる。
放水した水が蒸発している。
しばらくすると炎は見えなくなっていた。
延焼を食い止めることができたのだ。
資器材の大切さ
今回のエピソードでは、燃えている建物の玄関ドアを破壊して、直ちに放水し人命検索することで、早期に逃げ遅れた人を救出することができました。
逃げ遅れた人は一命をとりとめました。
間一髪だったと言えます。
レスキュー隊、ポンプ隊、救急隊の連携が大きな成果をもたらせました。
ここでもう一つ言いたいことは…
資器材の大切さです。
エンジンカッターが問題なく作動し、切断能力を発揮できたのは、当たり前のことではありません。
毎日エンジンカッターを点検し、整備し、大切に保管しているから、いざという時に能力を発揮してくれます。
この日ほど、資器材(エンジンカッター)に感謝したことはありません。
そして、日々行っている「資器材の点検」の意義を改めて学ぶことができました。

今回のエピソードは、火災現場に着いてから逃げ遅れた人を救うまで、あっと言う間の活動でした。
消防士たちの動きが洗練されていたと思います。
この洗練された動きは、地道な「訓練」や「資器材の点検」を行っていなければできません。
地道な努力が、「人命救助」に繋がったのです。
消防士にとってこんなに嬉しいことはないのです。
ぜひぜひ消防の世界に!
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