救助エピソード③《窓を破壊して母と子を救え》

学生
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消防士になりたい、消防の仕事に興味があるけれど…

転職考え中
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災害現場でどんな行動をしているの?

学生
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消防士がマンションベランダにはしごを架けていたけど、どんな活動をしているの?

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救助活動のエピソードが聞きたいな…

と想いや悩みを巡らせているのではないでしょうか?

この記事では、これらの想いや悩みを
『東京消防庁もとレスキュー隊長』の『バリー』が今までの経験から解説・アドバイスします。

最後まで読んでいただけたら、「救助活動現場のエピソード」から消防士の魅力がざっくり分かると思います。

ちなみに私は、

バリー
バリー

消防士は「やりがい」があって最高!

プライベートも充実させてくれて感謝!

って想っている幸せものです。

消防士になりたい興味がある方にとって、この記事が消防の世界に足を踏み入れる『きっかけ』になってもらえると嬉しいです。


特別救助隊副隊長として現場に


『マンション3階ベランダに女性がとりのこされている』

午前9時頃に指令が流れる。

レスキュー車の資器材の点検をしていたので、すぐに資器材を積載する。

感染防止衣や安全帯を着装して、車に乗り込んだ。

【資器材について解説】

感染防止衣

けが人の血液や体液から感染を防ぐ衣服。
上位とズボンがセットになっている。
交通事故現場や転落事故現場などに着ていく。

安全帯

安全ベルトのことで、高所で作業する場合に命綱として使用する。

現在は、フルボディーハーネス(腰、股、肩、胸部にベルトが設定され、万が一落下しても衝撃を分散させてくれる)を着装している。

颯爽と出場。

隊長が車内で情報を言う。

「指令室からの情報。女性は洗濯物を干そうとベランダに出たら、こどもに内鍵をかけられたみたいだ」

隊員が了解する。

機関員が言う。

「まもなく現場です。あの茶色いマンションです」

救助活動現場に到着

マンション前で何人かが心配そうに上を見上げている。

上を見ると、3階のベランダで若い女性がいる。

具合は悪くなさそうだ。

母は孤立し子は泣きじゃくる


隊長が指示をする。

「三連はしごを架けて状況を確認しよう」

全員が了解する。

私と後輩で三連はしごを持ってきて、はしごを伸ばす。

長さギリギリで三階に届いた。

直ぐに隊長とともにはしごを登る。

バリー
バリー

「三連はしご」について書いた記事がありますので、下にリンクを貼っておきます。

訓練エピソード③《三連はしごの基本》

ベランダに入ると女性が申し訳なさそうに「すいません」と言っている。

隊長が「ケガはしてないですか?具合は悪くないですか?」

と聞くと女性は「大丈夫です」と答えた。

室内の方を見ると、2歳にならないくらいの男の子が泣きじゃくっている。

母親がベランダに出ている時に鍵をかけてしまい、開け方が分からないのだ。

私たちを見てさらにパニックになっている。

私もヘルメットを脱いで、なだめようとするが、まったく効果がない。

さらに泣きじゃくる。

《状況と判断》

・玄関の鍵は室内にあるし、夫の携帯電話番号は室内にある携帯電話を見ないと分からない。

・玄関ドアのマスタキーはない。

・女性(母親)は、窓ガラスを割っても構わないと言っている。

・窓ガラスを割ることでガラス破片が飛び、子どもにケガをさせるリスクがある。

・ガラス破片が飛び散らない方法で窓を破壊する必要がある。

隊長が指示をする。

「ダイヤモンドカッターで窓ガラスを切断する」

バリー
バリー

ダイヤモンドカッターは、グラインダーに「ダイヤモンドが散りばめられた切断刃」を取付け、それが高速に回転して、あらゆる物を切断することができます。

ダイヤモンは鉱物の中で一番固いため、金属やコンクリートなども切断できます。

ガラスを切断すると細い線のように切れるので、大きな破片となって割れにくくなります。

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ダイヤモンドカッターで窓を切断



ダイヤモンドカッターの動力は、100V電源であるため、

レスキュー車からベランダまで電源用の延長ケーブルを伸ばす。

切断予定の窓ガラスには、切断途中にガラスが激しく割れ、破片が飛び散らないようにガムテープを張りつけた。

お母さんにも協力してもらい、切断する窓とは違う窓に息子さんを呼び寄せてもらう。

準備が整った。

隊長が、私に向かって切断する箇所を示す。

クレセント錠の近くで手が入る大きさの三角形にくりぬく。

切断するイメージをつけ、ダイヤモンドカッターの電源を入れた。

「キューン」という高い音とともに切断刃が高速に回る。

その回転を維持したまま、窓ガラスに当てる。

「ザザザザッ、ザザザザッ、ザザザザッ」

ガラスの削れる音がする。

ガラスにヒビが入らないよう慎重に切断刃を当てる。

1㎜、2㎜、3㎜、少しずつ切断していく。

「順調だ。イメージ通り切れている」

自分に言い聞かせながら、継続する。

そして、三角形の一辺を切断することができた。

続いて、二辺目の切断に入る。

「ザザザザッ、ザザザザッ、ザザザザッ」順調に切れていく。

ガラス全体もヒビが入っていない。

横目で男の子を見ると切断する音に驚いて泣いている。

ただ、こちらには近付いてくる気配がないので、切断作業を続けられる。

そして、三角形の二辺目を切断することができた。

さら三辺目を切断する。

隊長が私に指示する。

「三角形に切り抜かれた時に、破片が室内に入ってしまうから、ガムテープで固定しよう」

私は了解し、ガムテープを貼り付けた。

もう一度、ダイヤモンドカッターの切断刃を窓ガラスに当てる。

「ザザザザッ、ザザザザッ、ザザザザッ」

二辺がすでに切れているため、ガラスの破片が室内に押し込まれる感覚がある。

「ここは、焦らずガラスに当てる力を弱めたほうがいい」と思い…

微妙に切断方法を調整する。

残り、あと3㎜程度で切れる。

慎重に慎重に切断刃をあてる。

その時、三角形の破片が切り抜かれた。

隊長が「切断完了!ダイヤモンドカッター電源切断」

私は了解した。

隊長は、慎重にガムテープで貼り付いた三角形のガラス破片を取り除く。

そして、手を入れてクレセント錠を解錠した。

母と子の笑顔


隊長が窓を開放する。

部屋の床は、切断したガラスの細かい破片が落ちている。

その破片を作業用の布で払いのけ、お母さんに話しかける。

「どうぞ、息子さんのところに行って下さい」

お母さんも「ありがとうございます」と言いながら、息子に近づいていった。

息子も安心した顔になり、お母さんに抱っこされている。

二人とも笑顔になった。

私も資器材を撤収しながら、その光景を見て嬉しい気持ちになった。

周りを見ると隊長も隊員もみんな笑顔だった。

バリー
バリー

少しほっこりする現場を紹介しました。

消防士は、どんな現場でも助けを求める人を思って、最善の方法を選択し頑張っています。

助けを求める人をケガなく救出できると本当に嬉しい気持ちになります。

ぜひぜひ消防の世界に!

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